全国印章業経営者協会(略称:JS会)は、2018年を振りかえって一番印象の深かった出来事を絵柄として彫刻したハンコ『歳の印』を製作し、そのお披露目をおこなう「捺印式」を12月11日(火)渋谷・ヨシモト∞ホールにて実施しました。
2018 年の「歳の印」は、山口県周防大島町で行方不明になっていた 2 歳男児の救出や、西日本豪雨の被災地でのボランティア活動な どに尽力された「尾畠春夫」さんをモチーフとしました。
2018 年は、平成で最大の被害をもたらした西日本豪雨をはじめ、関西から中部地区のインフラにダメージを与えた台風 24 号、北海道で初 めて震度7を記録した北海道胆振東部地震、大阪北部地震など、日本列島は大きな自然災害に見舞われました。しかし、そういった暗く悲しい 世相の中で、尾畠さんがボランティアとして活動されているお姿が報じられたことで、被災地のみならず日本中が元気づけられました。また、見返 りを求めず、明るく力強く生きておられる尾畠さんの人柄も多くの人々に感動を与えました。
そもそもハンコ(印章)は古来、墨などで書くものと違って石や金属に「刻む」ことで永く保存され、次の時代に歴史を伝える役割を果たしてきました。 『歳の印』も、後世に何を伝えるべきか、何を刻むべきかを考えてモチーフを選んでおります。
単にその年に起こったセンセーショナルなニュース や流行を取り上げるのではなく、日本人として忘れてはならないこと、後世に伝えるべき大切な心を刻みたいと思っています。
そこで今年の「歳の印」のモチーフ選考では、尾畠さんをハンコに刻むことで、災害の中にあっても忘れてはならない「絆」やともに助け合う「共助」の心を、尾畠さんの素敵な笑顔と温かい人柄とともに、 後世へ伝えたいと考えました。
■「歳の印」って普通のハンコなの? その作り方とは。
「歳の印」のように、小さな印章に複雑な絵柄を彫刻するジャンルを「密刻(みっこく)」と呼びますが、これはハンコを彫刻する技術の中でも 高度な技能と熟練が必要です。2018年の「歳の印」は、印の判下(デザイン)と彫刻を、2人の若手印章作家が約2か月半の製作期間をかけて共作で作り上げました。
判下を担当したのは高知県高知市の印章店(㈲三星堂)に勤める中野 美奈さん(27)。芸術大学で美術を学び、現在はオリジナルデザ インのハンコやスタンプの製造に携わっています。今年の判下はハンコとしてのデザイン性に加え、デッサン力や似顔絵の技術が必要となる難し いテーマでしたが、若い女性ならではの繊細な感性を活かした絵柄ができあがりました。
彫刻を担当したのは愛知県名古屋市の印章店(㈱清光堂)柴田 大次郎さん(33)。国による一級印章彫刻技能士の資格を持ち、ハンコ 職人の腕前を競う「全国印章技術大競技会」(第 38 回 2012 年)の彫刻ゴム印・密刻の部で金賞を受賞するなど、若手ながら熟達した能 力を持つハンコ職人です。繊細でありながら尾畠さんの人柄が伝わるような力強いタッチで彫り上げて頂きました。
製作に使用したハンコの材料は、国産の鹿児島県で伐採された薩摩本ツゲ(黄楊)を原材料として、佐賀県の印材加工工場で1本1本丁寧に作られた印材です。大きさは36㎜角で、一般に会社の角印として使われることの多い21~24㎜角よりも一回り大きいサイズです。それでも、この小さな方寸の世界に、これだけの絵柄を手作業で彫刻するのは神業ともいえるでしょう。